体外受精、生殖補助医療の現状・№5       2016年11月 4日


③顕微授精、イクシ法
(山陽新聞 2016年5月16日の記事より引用)

顕微授精は精子数が極めて少ない、精子の運動性が低い、あるいは精巣から手術で精子を採取(TESE)した時など、通常の体外受精では受精できない場合のARTとして開発されました。

現在世界で行われている顕微授精は卵細胞質内精子注入法(ICSI=イクシ法)です。



イクシ法は顕微鏡下で微細なガラス針(マイクロピペット)に精子1個を吸い、卵子細胞質内に刺入する方法です。

イクシ法以前には、透明帯(卵子を包む糖蛋白(たんぱく)の膜)に穴を開ける透明帯開孔法(PZD)、卵子と透明帯との隙間に針を刺入して5個前後の精子を注入する囲卵腔(くう)内精子注入法(SUZI)など、精子の透明帯通過を補助する顕微授精が行われました。

しかし受精できない場合が多く、当院でもSUZIの出産率14%(129例中18例)と低率でした。

1992年にベルギーでイクシ法に成功し、その有効性により世界に普及しました。

当院では94年の精子不動症での1例目から現在までに新鮮胚1021人、凍結胚255人の出産を得ています。

日本産婦人科学会集計(2013年)では全国で新鮮胚と凍結胚の合計で2万人以上がイクシ法により誕生しています。



▽手技

卵子の直径は0・1mm、精子頭部の厚さは0・005mmです。

倒立顕微鏡で200倍に拡大し、微細に注入針を動かせるマイクロマニピュレーターを用います。

注入針はガラスピペットで精子1個がやっと通れる太さです。

注入する精子は頭部に空胞が無く、形が正常なものを選びます。

注入前に尾部を注入針で圧挫し、精子細胞膜の一部に穴を開けます。

これは不動化という重要な操作です。


自然や体外受精では受精準備が完成した精子が卵子に入りますが、イクシ法では準備が全くできていない精子を注入するので、受精するには穴から精子因子という卵子を活性化させる成分が放出される必要があります。

不動化精子を尾部から注入針に吸い、透明帯を通過させて針の先端に精子を移動し、卵子に刺入して中央線より奥に押し出して針を抜きます。

不動化から注入まで75秒ほどです。

これらの操作には高度の技術が必要ですが、7%ほどの卵子が破損します。

当院では最近ピエゾ圧電素子(いわば顕微高周波振動ドリル)を使ってイクシ法を行っています。

不動化や精子注入操作が手動よりも簡単で確実に行え、卵子の破損率が3%に減少し、受精率が80%に向上しています。



◇ 倉敷成人病センター(086―422―2111)

もとやま・ひろあき 広島大付属福山高、岡山大医学部卒。岡山大医学部付属病院、高知県立中央病院、岡山赤十字病院など経て1981年から現職。2015年末までにARTにより2082人が分娩。日本産科婦人科学会専門医。

※登場する人物・団体は掲載時の情報です。

続きは№6でご紹介します。



☆病院では精子と卵子の出会いの距離を確実に近づけてくれます。
(人工授精・体外受精・顕微授精)
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