(読売新聞 2023年2月12日の記事より引用)
●多様な選択ができる環境か。社会の成熟度が問われている
助産師たちは、陣痛の意味づけを強調し、産前の母親学級で繰り返し教えました。
「痛みを乗り越えて母になる」「生まれ来る子への愛情を深める痛み」との言説です。
確かに、陣痛を経験した女性が、そう述べることはありますが、痛みと母性の醸成を裏付ける科学的な根拠はありません。
私がインタビュー調査を始めた約20年前には、多くの助産師がその言説を疑わずに口にしていました。
メディアもその言説を世に広めました。
80年代、大手出版社が妊婦向けの雑誌を相次いで創刊、核家族化で、お産のイロハを教えてくれる人が身近にいない妊婦の心をつかみます。
各誌は、無痛分娩を紹介した時は必ず、「痛みの先には感動的な瞬間が待ち構えている」「痛みは赤ちゃんを抱きしめてあげるために必要」など痛みを肯定する文言を添えました。
「すべてのお産での無痛分娩の割合は2・6%」。
厚生労働省研究班が2008年に実施した初の全国調査の結果です。
この年、私がインタビューした、産後女性の声を紹介しましょう。
「(無痛分娩の出産は)夫以外誰にも話していない。ラクをしたがる嫁、子どものことを考えない母と思われたくなかった」
さらに語りは、続きます。
「ママ友との会話で、(お産の)痛みの自慢大会のような話になることがあって。痛みに耐えた自然出産が一番、次に手術の痛みがある帝王切開、最後に痛みを感じない無痛分娩という順番……」
無痛分娩を選んだ女性でさえも痛みの言説に縛られ、その有無で女性が序列化されていたのです。
その後、無痛分娩の割合は徐々に上昇。
厚労省の20年調査では8・6%でした。
増えた一番の理由は、女性の社会進出が進み、「私は私」と主体性を持って発言し、自分らしい選択ができる時代になったからでしょう。
お産も「痛いのはイヤ」と主張できるようになりました。
自然な出産を選ぶ人もいれば、無痛分娩を望む人もいます。
インタビューでも、麻酔で痛みを和らげることに後ろめたさを持つ女性はだいぶ減りました。
助産師からもお産の多様性を認める発言が目立つようになりました。
けれど、痛みと育児への姿勢を結びつけた主張も聞かれ、言説は完全に 払拭されていないと感じています。
無痛分娩など麻酔を使う出産の安全管理も大きな課題です。
17年に妊産婦死亡など重大な事故が相次いで発覚し、医師や看護師らの団体が協議会を設立して研修などを行うようになりました。
ただ、医療者の役割は、安全管理だけではありません。
無痛分娩では、お産の間、痛みで取り乱すことがないため、女性は様々な思いを巡らします。
「よい母親になれるだろうか」と心配が募ることもあれば、過去も振り返ります。
ある女性は、麻酔科医に涙ながらに訴えました。
「先生が痛みをとっちゃったから、1人目を死産した時のことを思い出してしまった」
助産師は「無痛分娩では、私たちの役割はない」と思いがちですが、産む女性に寄り添うケアが必要なのは同じです。
いまフランスの研究者や医療従事者、産後女性に対するインタビュー調査を進めています。
フランスでは1994年、無痛分娩を健康保険でカバーすると決めた際に、担当相は「硬膜外麻酔は 贅沢ぜいたく ではない。望む全ての女性が受ける権利がある」と宣言しました。
一方、できるだけ医療の介入を受けずに産みたい女性のために「お産の家」(助産所)も、国として整備しています。
調査を手がける中で、無痛でもそうでなくても、産む女性の主体的な選択が尊重されるフランス社会の姿が見えてきました。
日本では、無痛分娩は、通常の出産費に、追加で10万~15万円程度かかる「贅沢品」です。
実施施設がない地域もあります。
単なるお産の問題ではありません。
女性が経験する痛みに、社会全体で関心を持って理解しようとしているか。
全ての女性が、主体性を持って多様な選択ができる環境なのか。
社会の成熟度が問われているのです。
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