(読売新聞 2018年8月29日の記事より引用)
●時間負担大20%退職、8%転職
不妊の検査や治療を経験している夫婦は、5・5組に1組に上る。
子どもが欲しくてもなかなか授からない人にとって不妊治療は有力な選択肢だが、仕事との両立や治療のやめ時などに悩む人も多い。
家庭や企業、社会が不妊とどう向き合うかを考える。
●治療と仕事 両立難しく
「8年間働いた歯科の受付をやめて治療に専念したのにうまくいかず、病院と家との往復でストレスだらけでした」。
通算18年間の治療を4年前に終えた沖縄県の中本美香さん(47)は、そう振り返る。
タイミング法から始め、34才で体外受精に進み、何度も胚を移植した。
1回の治療に通院と待ち時間合わせて5時間。
注射のためにほぼ毎日通院した時もあり、愛着のある職場を離れた。
子育てしていないのに仕事もできない中ぶらりんの状態に「社会から取り残されたように感じた」。
体外受精は1周期あたり約40万円で経済的不安も増した。
結局、2回妊娠したがいずれも流産。
治療費は総額800万円になるという。
現在は患者支援の活動を始めるべく準備を進めている。
不妊治療患者らを支援するNPO法人Fine(ファイン)が2017年に行った調査では、仕事をしながら不妊治療をした人のうち、両立が困難なために20%が退社、8%が転職していた。
理由は「通院回数が多い」「診察・通院に時間がかかる」の順に多かった。
日本産科婦人科学会の調査では、年齢別にみた治療件数(15年)は38~42歳でいずれも3万件超。
働く女性の増加や晩婚化に伴い、職場で責任ある立場の患者も多そうだ。
だが、治療はそうした立場にはお構いなしだ。
Fine理事長の松本亜樹子さんは「不妊治療では、卵子の入った卵胞の状態を見ながら治療が進む。卵胞を育てる注射や薬の種類・量は個人によって異なり、急に通院が決まることもある」と指摘する。
両立に悩みながら不妊治療を受けても、必ず妊娠・出産できるとは限らない。
治療経験者の女性(47)は、「有名人の高齢出産が話題になり、40歳を過ぎてからの妊娠もそれほど難しいことではないと勘違いしていた」と悔やむ。
退職や転職までには至らなくても、思い描いたキャリアが揺らぐ例もある。
東京都の女性会社員(36)は留学経験があり、以前は海外駐在も視野に入れていた。
結婚後、「まずは子どもを」と海外赴任の希望を見送ったが、予想以上に不妊治療が長期化。
「こんなことなら希望を出すべきだった」と後悔した。
今は1児の母になった。
職場の人間関係にも影響を及ぼす。
男性不妊で体外受精に進んだ都内の女性会社員(29)は、妊娠したが流産。
同じ頃に同僚が妊娠し、「精神的な波」に翻弄された。
「周囲は『子どもはかわいい。絶対作った方がいい』と言う。今はそれが一番嫌」
Fineの調査では、職場の理解不足を嘆く声も多く寄せられた。
「治療で休みが増えることを上司に告げると『妊活か仕事か選べ』と言われ、退職した」
「治療内容を知らない人が多く、『また休むの?』と言われた」などだ。
妊娠前のこうした発言を、Fineは「プレ・マタニティハラスメント」と定義する。
松本さんは「こうしたハラスメントにより、仕事を続けられなくなる人は後を絶たない。管理職教育を通じ、職場で不妊に対する理解を深めてもらうことが必須だ」と話す。)
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(人工授精・体外受精・顕微授精)
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